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2019年12月10日 (火)

小説「出口のない海」④あまりに完璧な自爆特攻兵器

 

今日は令和元年12月10日。

  

前投稿に引き続いて「出口のない海」 (横山秀夫著/講談社)

から引用します。

   

馬場大尉が重々しく言った。

「天を回らし、戦局の逆転を図る。名付けて回天である。弾道

に搭載する1.6トンの炸薬は、いかなる戦艦、空母といえど

も一撃で轟沈(ごうちん)可能だ。この回天が何十基、いや何

百基と敵艦に襲い掛かり、ことごとく敵艦を海に葬るのだ」

大量の爆薬・・・・。潜望鏡・・・・。

並木はすべてを悟った。

ーーーそういうことだ。俺たちは魚雷の目になって敵艦に突っ

込むんだ。

(136p)

  

 

川棚の魚雷艇訓練所にいた頃、「震洋(しんよう)」という特

攻兵器を見た。ベニヤ板に貨物自動車のエンジンを取り付けた

だけの、お粗末な船だった。これに爆薬を積み込み、水上を走

って敵艦に突撃するのだという。ただし、そのまま自爆してし

まうのではなく、敵艦に接近したところで搭乗員は海に飛び込

んで逃げる。だから水泳の達者な者を搭乗員に選んでいる。そ

んな説明を聞かされた。

  

それは気休めには違いない。敵艦に接近してから海に飛び込ん

でも、爆発の威力から逃れることは難しい。しかも敵との戦闘

のさなか、味方のいる海岸に泳ぎつくなど不可能だろう。だが、

気休めとはいえ、ともかく建前は自爆兵器ではない。死を覚悟

して行く「決死隊」であっても、必ず死ぬ「必死隊」ではない。

同じようでいて、二つの間には天と地ほどの開きがある。

  

必ず死ぬとわかって行くのでは、もう人間ではいられない。そ

れは機械の一部だ。歯車だ。自分自身に対する確実なる死の宣

告は、人としての感情を捨ててしまわねば成立しえない。

やはり川棚にいた頃、回天は改良されているらしいとの噂を耳

にした。一型には脱出装置がないが、いま開発中の二型には付

いているのだという話だった。そんな根も葉もない噂に縋りつ

く思いでこの光基地に来た。だがーーー。

全ての希望は断ち切られた。回天は、あまりに完璧な自爆特攻

兵器だった。

(139p)

  

 


回天の形が、ほぼ魚雷であったことで、

「全ての希望は断ち切られた」のでしょう。

  

  

海がちかい。波の音が聞こえる。

ーーーなぜ、俺はこんなところにいるんだろう・・・・。

たった1年前にはグランドにいた。毎日みんなで野球をしてい

た。剛原や、小畑や、津田や、みんなで泥だらけになって白球

を追いかけていた。ボレロで冗談を言い合い、一球荘で喧嘩を

し、グラウンドで心を一つにした。なのに今は散り散りだ。み

んなバラバラにされて、自分一人ここにいる。一人で回天に乗

り、一人で死ぬ。

(140p)

  

並木の心の機微が、とても上手に表現されていると思いました。

死ぬほどの苦境ではなけど、辛い時にはこう思う時があります。

さすが、作家です。

  

  

並木と起きたが親しくなったのには、もう一つ理由があった。

いま二人の間をちょこまか行ったり来たりしている「カイテン」

である。

茶色の毛の子犬だ。まだ目が見えないようなのを沖田がどこか

らか拾ってきた。食糧事情が悪い昨今だ。犬にまで食べさせる

余裕はないと飼い主に捨てられたのだろう。カイテンという名

に並木は反対したのだが、沖田はひどく真剣な顔で言ったもの

だ。救国の兵器の名を付けてどこが悪いんですか。こいつだっ

てきっと喜びますーーー。

 

基地では誰もが「回天」をあまり口にしない。そもそも軍の機

密だから軽々しく口にできないし、だからではないが、普段は

「的(てき)」とか「艇(てい)」とか呼んでいる。心のどこ

かで、その名を避けているところがあるのかもしれない。回天。

それは死を意味する言葉でもあるからだ。

「カイテン、メシだぞぉ!」「おーい、カイテン、カーイテー

ン!どこだぁ!」

こうなるともう、回天は本当に救国の兵器なのだろうかと疑わ

しくなる。並木は内心苦笑しつつ、そんな沖田とともにカイテ

ンの世話をするのが日々の楽しみになっていた。

(157p)

 

とてもユーモアのあるエピソードだと思う。

実際にあった話なのか、横山秀夫氏の創作か。

ちなみに「漫画で読める 出口のない海」にはなかった話です。

  

  

つづく

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