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2019年6月22日 (土)

「収容所から来た遺書」10/辺見じゅんさんが描こうとした理由

 

今日は令和元年6月22日。

 

前投稿に引き続き、 

収容所(ラーゲリ)から来た遺書」(辺見じゅん著/文藝春秋)より

引用します。

  

ここでも道草 「収容所から来た遺書」5/1998年「驚きももの木20世紀」(2019年6月21日投稿)

↑ ここで書いたことですが、山本幡男さんの遺書を

暗記するように依頼されたのは6人でした。

でも上の本には、もう1人いました。

日下(くさか)齢夫さんです。

  

アムール句会の日下齢夫は、佐藤から「字の書かれたものは、

日本に帰還するときにナホトカで全部没収されるから

頭のなかに入れておくのが安全確実だよ」と、

ノートを受け取るときにいわれた。

居住バラックの蚕棚では危険なので、

ラーゲリの図書室にいき、本を借りて読むふりをしながら、

「妻よ!」を筆写した。

そしてフハイカ(綿外套)の綿のなかにその写しを隠した。

作業から戻ると周囲に人の気配がないとき、

こっそり取り出して寝台に寝っころがって見ながら暗記した。

帰国はなん年いやなん十年先のことかわからず、

気が遠くなるような任務だったが、蚕棚で眠る前に

頭のなかで復誦するのが習慣になった。

覚えにくい箇所には赤い選を引いたり、〇印をつけた。

(230p)

  

日下齢夫は、フハイカの綿のなかに入れて隠しもっていた

「妻よ!」の写しを、ラーゲリを出発する前に小さく折り畳み、

それを芯にして念入りに糸を巻きつけた。

持っていた糸をすべてをなん十回となく巻いて糸巻に

し終ると、ようやく安堵した。

糸巻と針はだれもが持っていたし、たとえ検査されても

怪しまれる危険はないはずだ。

絶好の隠し場所をよくぞ考えついたと自讃した。

検査にも糸巻は簡単にとおった。

糸巻にした遺書をもって(興安丸の)タラップを登りつめた。

(246p)

  

日下さんの書いた写しを、2002年2月24日放映

知ってるつもり!?」で、辺見じゅんさんが持参していました。

その時の写真です。

Rimg2091

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Rimg2096  

その日下さんが、興安丸船上で作った俳句。

  

寒鯛(カンダイ)に十年の箸をとりにけり      梅城

   

梅城こと日下齢夫の句である。寒鯛も十年ぶりだったし、

箸をとるのも十年ぶりだった。

糸巻の芯にした山本の遺書は無事だったので、

心ゆくまで故国の味を堪能した。

手製の木彫りのスプーンではなく、

日本の箸を手にしたときはさすがに感無量だった。

(250p)

  

  

収容所(ラーゲリ)から来た遺書」のあとがきによると、

昭和61年の夏に読売新聞と角川書店が主催した

「昭和の遺書」募集で、辺見じゅんさんは選者として

山本幡男さんの遺書に出合ったそうです。

(それが、持参した日下さんの写し)

そして山本さんのことを調べているうちに、

山本さんの生涯を描きたくなったそうです。引用します。

  

非力をかえりみず偉大なる凡人の生涯、それもシベリアの地で

逝った一人の男の肖像を描きたいと思ったのは、

その不屈の精神と生命力に感動したからに他ならない。

過酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとはどういうことかを、

取材しながら教えられた思いでいっぱいである。

それと共に山本氏の志を御遺族に伝えようとされた人々の友情を、

何よりも尊く、美しく思ったからである。

(268p)

  

   

  

本当にたくさん引用しました。

山本幡男さんのことを書き留めておきたいという気持ちで、

けっこう集中して文章をうちました。

 

本も映像も20年ほど前に入手したものばかりでした。

でも20年も経って、少し風化し始めた今頃に、

こうやってブログで大騒ぎ?するのは価値があるかもしれません。

断続的に誰かが大騒ぎして、それで出来事をつないでいく。

将来誰かが興味を持って、ここに来てくれたらいいなと思います。

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