「消えた春」・・・特攻隊の人たちの気持ち
今日は4月23日。再スタートから10日目。
前投稿に引き続き、「消えた春 特攻に散った投手石丸進一」(牛島秀彦著/河出文庫)より。
先に読んだ、同じく戦争で死んだプロ野球投手広瀬習一さんのことを書いた本
「戦火に消えた幻のエース」とは違って、
プロ野球で活躍した場面は少なく、召集以後の場面が多い本でした。
どちらもありかなと思います。
2人とも大の野球好きだったけど、戦争によってそれが遮られたことが伝わってきます。
石丸進一の場合、恋人桜井圭子との恋が無残でした。
進一が圭子に恋い焦がれ、互いに好きあっていることがわかる。
進一が特攻に志願したことに気づいた圭子は、
死ぬな、私と逃げようとまで言う。
しかし、進一の出撃前に圭子は空襲によって命を失う。
そして進一は、死んで圭子と出会うことを楽しみに?出撃していく。
出撃命令が下った進一の様子を著者はこう書いています。
第五筑波隊の特攻出撃は、最初(昭和20年)4月30日の夜になって、
翌朝5月1日であることが突然言い渡された。
早晩出撃命令が下るーーーーと覚悟はしていたものの、全員集合がかかり、
あらためて出撃特攻隊員名簿の三番目に自分の名前が呼び上げられると、
進一は、自分の顔から、みるみる血の気が引いていくのをはっきり感じた。
明日の今の時刻には、自分はもう此世に居ないんだーーーーと思うと、
奈落の底に落ちて行くような、頭のなかが全く空白になったような虚脱感が全身を襲った。
お頭付きの鯛の煮付けと野菜の煮物、そしてみそ汁と沢庵の夕食も、
ほとんど箸をつけず、教室の一隅に敷いてある粗末な畳の上にひっくりかえった。 (273p)
ひっくりかえった気持ちはわかる・・つもり。
明日の今頃には、自分はこの世にいない。恐ろしい体験だ。
進一の出撃は、天候不順のために5月11日まで延期となる。
しかし、後の時代にわかる終戦の日(8月15日)はまだやってきませんでした。
進一は午前6時55分に出撃します。
著者は、進一の最期を、一生懸命想像力を働かせてこう書いていました。
雲海を突き抜けると、其処は思わず息を呑むような真紅の幻想の世界が果てしなく広がっていた。
目も眩むばかりの太陽を横に見て進むほどに、
真紅の朝焼けは、薄桃から橙、そして黄にめまぐるしく変化して行く。
天界が一面黄金色に染まったとき、圭子の顔が進一の視界いっぱいに広がった。
「もう、ここから先に行っちゃダメ!どこでもいいから不時着して頂戴!絶対に死んじゃいやーっ!」
圭子は、身を捩って絶叫した。
その瞬間、進一は、圭子の顔いっぱいに無数の銀粒がふきだし、それは見る間に、
それぞれが胡麻粒大になって顔一杯にひろがったのを見た。
来た、グラマンの大群だ!(援護の)制空隊の零戦はあっという間もなく火をふき、
黒煙を発して空中爆発を起こすか、キリモミ状態になって逆落としになって落ちていった。
進一の機は、無意識のうちに太陽に向かって飛んでいた。前方を見ると、目が眩んだ。
まずいーーーと思った瞬間、鉄棒で鼻柱を思いっきり殴られたような衝撃を感じる間もあらばこそ、
全世界が、火を吹き出し、全てが真っ紅になった。
進一の特攻機には、前後のグラマン機がピラニアのように喰いつき、
25番(250キロ爆弾)を吊ったよたよたの零戦めがけて撃って撃って撃ちまくっていた。
それこそ全身蜂の巣のように弾丸を撃ちこまれながら、どっと吹き出す血海のなかで、
進一は、苦悶の声もなく、薄紫のマフラーを掻きむしり、
飛行服のポケットのなかの圭子の写真に左手がわずかに触れたとき、
特攻機は紅蓮の炎を一気に吹上げて、空中爆発した。 (291p)
特攻隊の人たちは、死ぬ直前にどんなことがあり、
どんなことを思ったのか考えます。
こんな思いをしたくない。やっぱり戦争は絶対やっていはいけないことだと思う。
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