「メディア論の名著30」パニックはなかったという記述
今日は令和3年3月4日。
「メディア論の名著30」(佐藤卓己著/ちくま新書)
この本を図書館で借りてきました。
読みたかったのは30分の1。
名著の1冊である
ハドリー・キャントリル著「火星からの侵入」
(原著刊行年1940年)に関する記述です。
この記述の中で、1938年10月30日、ハロウィーンの
夜に流れたラジオ劇中の「火星人襲来」ニュースで
全米がパニックになったという話は違うよという部分を
拾ってみました。
「逃げまわって死者まで出る騒ぎ」は新聞紙のデマであり、大パニ
ック(群衆的錯乱行動)はまったく確認できていない。にもかかわ
らず、こうしたパニック神話が持続してきたのは、世界的な社会心
理学者キャントリルがものした本書が存在するためでもあろう。実
際、私自身も「現代メディア史」(1998年)で「弾丸効果論」
の古典として本書に言及したとき、大パニックの存在そのものには
まったく疑ってはいなかった。
(133~134p)
「弾丸効果論」については、
Wikipedia メディア効果論で勉強できました。
佐藤卓己さんも、疑っていなかったことを認めて、
パニックはなかったとしています。
新聞は競合するニュースメディアの「ハロウィンのいたずら」番組
に過剰反応したが、実際にパニック発生で生じたとされたショック
死や軍隊出動の記録は確認されていない。ロックフェラー財団の資
金援助で行われたキャントリルのラジオ研究(「火星からの侵入」
1940)では、ラジオの効果を強調すべく聴収者の反応が過大に
評価されていた。
(134~135p)
新聞が過剰反応した模様。
そもそも、今日の災害社会学研究(E・L・クアランテリなど)の
知見では、ハリウッド映画の戦争・災害シーンはともかく、現実の
パニック(恐慌)状態では人々は逃避するよりその場にとどまるこ
とが多く、錯乱行動が発生するのは例外的だとされている。必要な
情報を得ることができない人間は、豪雨でフロントガラスから外が
見えない自動車運転手とよく似た状況に置かれており、そこでアク
セルを踏み込むドライバーは稀である。たとえパニックを意味する
内容に「不安、狼狽などに起因する激しい個人的感情」から「社会
的混乱をもたらす集合行動」までの幅があるとしても、パニックで
後者のみがイメージされる一因に本書の「火星人襲来パニック」神
話があると言えよう。
(135p)
災害社会学研究の知見からも、「社会的混乱をもたらす集合行動」は
起きにくいと論じています。
「本書」=「火星からの侵入」にはどんなことが書いてあるのかなと
興味は持ちますが、私の追求はここまでです。
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