「赤めだか」① まくしたてる能力
今日は令和2年3月4日。
「赤めだか」(立川談春著/扶桑社)を読みました。
談春さんが立川談志さんに入門をお願いするシーン。
(談志)「高校はどうするつもりだ」
(談春)「辞めます」
「そうか。学校というところは思い出作りには最適な場所だ。
同級生がいて遊び場がある。だが勉強は何処でもできる。俺の
側にいる方が勉強になる。学校では会えないような一流の人間
にも会える。学歴なんぞ気にしなくていい」
「はい」
(19p)
談志さんの言葉に、学校関係者なのに
「なるほど!」と思っています。
勉強は何処でもできるし、
一流の人と交わることは勉強になると思います。
でも学校はもっと良くなると言いたい。
学校もいい勉強ができるところだと胸をはって言いたい。
翌日、談春(ボク)は談志(イエモト)と書斎で二人きりにな
った。突然談志(イエモト)が、
「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と云った。
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であ
げつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云う
んです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は
安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送れ
ばそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。
嫉妬している方が楽だからな。芸人なんぞそういう輩(やから)
の固まりみたいなもんだ。だがそんなことで状況は何も変わら
ない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の
中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そし
て現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなっ
たかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理す
りゃいいんだ。その行動を起こせない奴は俺の基準で馬鹿と云
う」
(116p)
現状の理解と分析、そして処理。
その通りですよね。
嫉妬するエネルギーを、それらの行動に向けたいです。
きっと改善される。
嫉妬している時間がもったいない。
来た、高田文夫だ。
トレードマークと云ってもいいギョロ目は近くで見るとほんと
にデカイ。目にもまぶしい真っ赤なスタジャン。袖の部分の白
は革で談春(オレ)達が着てるスタジャンが何枚も買えるほど
高いのだろう。
「高田先生、ほ、本日は、お、お忙しい、と、ところを・・・」
志らくの挨拶をさえぎって高田が云う。
「志らく、お前なんか云わなくていいから。相変わらず口が不
自由だな。可哀そうな噺家だよ。来ちゃったよ。馬鹿野郎。前
座の会なんか観に来るのは初めてだよ。俺に歴史をつくらせや
がって憎いねどうも。こっちの兄(あん)ちゃんは?談春?フ
ーン、しっかりやってくれよ、頼むよホント。お前等何席ずつ
演るの、二席ずつ?災難だなァ。何が悲しくて前座の落語を四
席も聴かなきゃならないんだ。俺そんなに悪いこと何かしたか」
速い。自己完結する会話のスピードと、売れている人間独特の
オーラとでも云うのだろうか。妙なまぶしさで談春(オレ)は
息苦しくなった。
(171~172p)
これだけまくしたてる能力をもつ高田文夫さんは、
すごい人なんだと思った文章です。
ページが戻ってしまうけど、立川談志さんが、
弟子たちに指示を出すところも圧巻です。
まくしたてています。
ひととおりの掃除をしているうちに談志(イエモト)が起きて
くる。揃って朝の挨拶に伺った途端、指示が飛ぶ。
「二階のベランダ側の窓の桟が汚れている、きれいにしろ。葉
書出しとけ。スーパーで牛乳買ってこい。庭のつつじの花がし
ぼんで汚ねェ、むしっちまえ。留守の間に隣の家に宅急便が届
いている、もらってこい。枕カバー替えとけ。事務所に電話し
て、この間の仕事のギャラ確認しとけ。シャワーの出が良くな
い上にお湯がぬるい。原因を調べて直せ。どうしてもお前たち
で直せないなら職人を呼ぶことも許すが、金は使うな。物置に
写真が大量にある。外枠の白い部分が俺は嫌いだ、きれいにカ
ットしろ。豚のコマ切れ百グラム買ってこい。戸袋に鳥が巣を
作ったようだ、うまく処理しろ、これは談々にやらせろ。スリ
ッパの裏が汚ねェ、きれいにふいとけ。家の塀を偉そうな顔し
て猫が歩きやがる。不愉快だ、空気銃で撃て。ただし殺すな。
重傷でいい。庭の八重桜に毛虫がたかると嫌だから、薬まいと
け。何か探せばそれらしきものがあるだろう。なきゃ作れ。オ
リジナリティとはそうやって発揮してゆくもんだ」
立て続けにここまで云われると人間おだやかな気持ちになるこ
とを僕は知った。なんとか覚えようとはするが無理なものは無
理。スーパーへのお使いはこれとこれ、掃除はココとココ。急
ぐ用事はあれで、時間をかけてもいいのは庭のものと、いくら
か系統だててくれれば、覚えられる可能性を若干残すだろうが、
談志(イエモト)は思いつくままに云い立てるからひとつも頭
に残らない。一番恐ろしいことは、談志(イエモト)は云いつ
けた用事をひとつ残らず覚えていて、一日の終わりに全てチェ
ックが入るという事実。
(45~46p)
この出来事も含めて、この本を読んで、
立川談志さんはやっぱり天才だったんだと
思うようになりました。
でも談春さんも、よく思い出してこの指示を書いたなあ。
この指示の後に起こった珍事の数々が、
忘れられない出来事だったのでしょう。
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