対×談 福岡伸一・ブレンディみかこ 3/4
今日は令和2年1月2日。
前投稿の続きで、
1月1日朝日新聞朝刊の対談を書き写します。
福岡:「多様性」という言葉は1980年代後半、生物の種の
多様性が必要だという形で提唱され、次第に広まっていっ
たのだと思います。
ブレンディ:先生のご専門ですが、「生物多様性」はよく聞く
言葉ですよね。
福岡:一般にはライオンとか象といった数多くの「種」が存在
していることを示しますが、実はひとつの種の中に多様性
が存在することも、その種が生き延びるために不可欠なん
です。
ブレンディ:それはどういうことでしょうか。
福岡:何百万年といった生物界の長い時間軸の中では、いつ突
然、環境が激変するかわからない。そのとき、ひ弱そうな
個体の方が生き延びるかもしれないんです。種が生き残る
ためには、個体のバリエーションが豊富な方がいいという
多様性ですね。
ブレンディ:すごくスケールが大きな話ですね。
福岡:アリには必ず2割程度、忙しいふりをしてサボっている
個体がいます。この2割を取り除くと、残りの勤勉なアリ
の2割がまたサボります。天敵に攻められたときに戦うた
めとか、洪水の際に巣を直すためとか、いろんな説がある
けどよくわからない。
ブレンディ:面白いですね。人間という種にも、多様な存在の
仕方があるほうが長い目では得なわけですね。
福岡:そうです。平たく言えば「変わり者」を多く内包してい
る社会の方が実は強靭(きょうじん)だと示唆してくれま
す。でも生物学的には、人間ほど多様性に乏しい生き物は
いません。人間は他の動物と比べ、遺伝子レベルでは非常
に均等性の高い種です。肌の色や習慣、宗教などほんの小
さな差異が大きな違いに見えるのは、逆に均質すぎるから
なのです。
ブレンディ:それは知りませんでした。
福岡:「人種」という言葉がありますが、我々「ホモサピエン
ス」はどんな組み合わせの男女でも子どもを作れる完全均
一な種です。でも仮に現在、ネアンデルタール人が生き残
っていたとしたら、彼らとセックスしても子どもができに
くい。社会で少数派の彼らが差別される・・・・なんてこ
とがあったら、これが本当の「人種問題」ですよ。
ブレンディ:今の人種の違いなんてどうでもよくなる、壮大な
「人種問題」ですね。
福岡:もう一つ、人間は唯一、「産めよ増やせよ」という遺伝
子のたくらみから脱出できた種なのです。
ブレンディ:「遺伝子のたくらみ」って何ですか?
福岡:例えば、ある種の昆虫は卵を約4千個産みます。大半は
死んでも、1、2匹生き残って種をつなげばOK。つまり、
生物において「個体」は「種」の保存に奉仕するための道
具でしかない。それが「遺伝子のたくらみ」です。しかし
人間だけは、「個体」に価値があると考えた方がより豊か
な社会を構築できると気づき、それを人類共通の価値にし
ようと約束した。それが基本的人権の起源だと思うんです。
ブレンディ:それなのに「個体同士」で争い合う歴史を繰り返
しています。
福岡:不幸にも人間はつい群れたくなるんですね。そして、人
種とか民族とか、国家といった階層を作りたがる。それゆ
えに争いごとが絶えないのです。
福岡伸一さんの「生物学的」な見方は興味深いです。
基本的人権の起源も、人類が「個体」に価値があることに気づき、
それを人類共通の価値にしようと
「約束」したところからなのですね。
約束だから、本能ではありません。
だから基本的人権の侵害が起こってしまいます。
戦争は最たるものです。
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