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2019年12月10日 (火)

小説「出口のない海」⑦回天を伝えるために死のうと思う

  

今日は令和元年12月10日。

  

前投稿に引き続いて「出口のない海」 (横山秀夫著/講談社)

から引用します。

  

出撃の時に、回天のハッチは、外にいる整備員が閉めます。

  

  

「ハッチ閉めます。ご成功を祈っています!」

「伊藤、これまでありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました! --閉めます・・・!」

ゴクンと重い音がしてハッチが閉じた。

鼓膜に密閉の圧が掛かる。

(242p)

  

鼓膜に密閉の圧が掛かる

この一行が素晴らしい。緊迫感が伝わります。

  

  

  

沖田は顔を上げた。

「でも一つだけ聞かせてください。祖国防衛ではなく、ならば

並木少尉はなんのために死ぬのですか」

「それをずっと考えてたんだ」

並木は遠くを見つめた。

「俺はな、回天を伝えるために死のうと思う」

「伝える・・・?」

並木は頷いた。

「勝とうが負けようが、いずれ戦争は終わる。平和な時がきっ

とくる。その時になって回天を知ったら、みんなはどう思うだ

ろう。なんと非人間的な兵器だといきり立つか。祖国のために

魚雷に乗り込んだ俺たちの心情に憐れむか。馬鹿馬鹿しいと笑

うか。それはわからないが、俺は人間魚雷という兵器がこの世

に存在したことを伝えたい。俺たちの死は、人間が兵器の一部

になったことの動かしがたい事実として残る。それでいい。俺

はそのために死ぬ」

(272~273p)

  

これは作者がこの作品を書いた主題でもあると思います。

  

  

ボレロが聞きたくなった並木は、休暇に陸に上がった時に、

沖田と一緒に国民学校を訪れます。音楽室に行って、

そこにいた女教師に、ボレロを聴かせてほしいと頼みます。

女教師は、ここにはレコードはないが、女学校に行けばあると言って、

自転車で出かけます。女教師は、2人が特攻隊員だと知っていて、

どうにかしてあげたいと思ったのです。

並木と沖田は、音楽室で待つことになります。

  

 

外で音がした。見ると自転車が倒れていて、膝を擦りむいた女

教師が立ち上がるところだった。構わず小走りでこちらにやっ

てくる。

「すみません、お待たせしちゃって」

女教師は肩で息をしていた。

「大丈夫ですか」

「あ、平気です。でも・・・・」

女教師は顔を曇らせた。

「なかったんです。ボレロのレコード」

「ああ、いいんです。お気持ちだけいただいて帰ります。本当

にありがとうございました」

並木と沖田は折り目正しく挨拶をして音楽室を出ようとした。

その背に声が掛かった。

「あの・・・オルガンではいけませんか」

並木は振り向いた。

「オルガン?」

「うまく弾けるかわかりませんけど・・・」

女教師は黄ばんだ楽譜を握りしめていた。

並木と沖田は明るい顔を見合わせた。

「ぜひ、お願いします」

足踏み式のオルガンからボレロが流れ始めた。女教師は何度も

つっかえ、何度も弾き直した。だがそれは胸に響いた。どんな

有名な交響楽団が奏でるボレロより心に残った。

(273~274p)

 

この小説を読むと、「ボレロ」が聴きたくなりますよ。

きっと。


YouTube: Bolero (Gergiev)

  

  

ふ~疲れた。でも引用したい文章は全て書きうつしました。

ミニ財産になりました。

本の返却期限は今日まで。間に合いました。

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