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2020年5月13日 (水)

「人間」 覚えているのは頻繁にその日のことを思い出していたから

 

今日は令和2年5月13日。

  

勤務校の図書室で借りた7冊目の本を読破。

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「人間」(又吉直樹著/毎日新聞出版)

    

私は太宰治の「人間失格」を読んだことはありませんが、

この本を読んでみて、きっと「人間失格」ってこんな本なんだろうなと

勝手に想像しました。

 

印象に残った文章を書き留めます。

 

 早口で話すのは変わりはないが、いつからか仲野はお調子者とい

う雰囲気を捨てて、どこか虚ろな暗い表情を意識的に作って話すよ

うになった。仲野の変化の理由はおおむね彼が読んでいる雑誌や小

説に答えが記されていた。

 一度、おなじようにリビングで仲野が政治の話を熱心にしていた

ことがあった。仲野がトイレに立ったときに彼が読んでいた本を見

ると、案の定、それは政治の本で、しおりが挟まれていたページに、

そのまま仲野がさっきまで語っていたことが書かれていたので思わ

ず吹き出してしまったこともあった。自分が触れたものの表面だけ

を直接摂取する悪癖は、中学生が修学旅行で買ったサングラスをつ

けて悪ぶっているような痛々しさがあったが、中学生達の風景のよ

うに愛することができなかった。

(30p)

  

私も日々新聞や本を読んで、印象に残った文章を書き留めたり、

記事の写真を載せたりしています。

まさに「表面の直接摂取」の連続のように思えます。

でもこの積み重ねの果てに、何か総合的な力が得られると信じて

日々ブログに向かっています。

  

   

 小学校に上がる前、もっと自分達が小さな頃に近所の児童公園で

その女の子と一度だけ話したことがあった。(中略)その日のこと

を女の子は覚えていない。僕が覚えているのは頻繁にその日のこと

を思い出していたからだ。

(40p)

  

こういう記憶が確かにありません。

それは思い出したくないような、

すぐにでも心から追い出したくなる思い出です。

あの時、そんなこと言うんじゃなかった、

そんな態度をするんじゃなかったと思う。

わすれていたのに、時々思い出すことで、

記憶に何度も刻まれ続けてしまう記憶。

2度と同じような行動をとらないように、

人間の防衛反応がなせる業でしょうか。

  

  

 なぜか自分は、人から気難しいとおもわれることが多かった。

子供の頃はもっと上手に馬鹿にされることができた。いつから

周りを警戒させてしまうようになったのだろう。

(52p)

  

こう思う時が時々あります。

気さくに話しかけられないなあ、

歳が歳だもんなと考えもしました。

共感できた文章なので、引用しました。

  

   

(僕)「子供の頃、絵を描くのが好きやってん。いつものよ

うに自由に絵を描いていた。保育所の先生が、あなたの絵を見

るのが楽しみや、って言ってくれたり。でもな、小学校の図工

の授業でゾウの絵を描く時間があってんな。俺は迷うことなく、

街の風景とゾウの尻尾だけを画用紙に描いた。ここをゾウが歩

いていきましたよという風景を描こうとおもって。10秒前な

らゾウは画用紙の中央にいたけど、今は画用紙の外にいるとい

う絵を描いてん」

(影島)「ええやん」

「先生になんて言われたとおもう?」

僕が質問すると、影島がこちらに顔をむけた。影島の前歯が1

本なかった。

「褒められたんちゃうの?」

「そうおもうやん?」

「違うん?」

 前歯が1本ない影島が真剣な表情で僕の言葉を待っていた。

少しだけ息を吸って吐く。

「調子乗んな、って言われて頭叩かれてん」

 影島は飲みかけのハイボールを噴き出した。彼が笑ったので、

僕も釣られて笑った。

「嘘やろ?」

「ほんまやねん」

「無茶苦茶やん」

「そのあと、先生ちょっと笑いながら、もうええねん、こうい

う奇をてらうの、って言うてん。めっちゃ恥ずかしかった。も

う絵なんて描きたくないとさえおもった。」

そう言って、笑ったけど、もう影島は笑っていなかった。

「そっからな、絵を描こうとおもうたびに、その先生の言葉が

頭のなかで響くねん。ほんならこれも、奇をてらってるとおも

われちゃうかな?かっこつけてないかな?って気になってしも

うてな、わざと平凡な構図で描くようになったり・・・」

(249~250p)

「うん。それから、人と違うことをやるのが恥ずかしくなった。

人と違うことをやるということは、人と違うとおもわれたいと

いうことと解釈されてしまうのが苦痛で。それをはね返す力が

自分にはなかったから」

(251p)

  

先生の言葉って、影響力がありますよね。

又吉さんの実体験だろうか。

さらにこんな文書も。☟

  

(影島)「(前略)教師からすれば、各々の個性を尊重するべき

みたいな言葉は頭の片隅にあったとしても、身体に馴染んではな

やろうから、結局は自由に描いていいはずの絵まで、矯正して

まう。しかも、それが絵に対する批評ではなくて、人と違うこ

をいうことを恥ずかしくおもえという理屈やねん。」

(252p) 

   

「身体に馴染んではない」に注目です。

教師は「自由」が馴染んでいないんだよなあ。

指導しちゃうんだね。

真逆の西郷孝彦先生が思い浮かびます。

ここでも道草 今晩のお薦め番組「ハートネットTV」「ノーナレ」(2020年5月11日投稿)

 

(僕)「美術館で長い時間を掛けて絵画を鑑賞したあと、外に出る

と見慣れた景色のなかにある、いつも目にしていたはずの色が、異

常なほど際立って、奇跡のような印象で目に映ることはある」

(影島)「それは、作家の目をかりてんのかもしれへんな。」

(276p) 

  

「作家の目」

本を読んだ後に、「作家の目」を感じます。

300pぐらいの本を読みきると、

作家の思考みたいなものが自分の中に残っているなあと思います。

又吉さんなら、こう思うだろうなと想像します。

  

  

以上で「人間」からの引用を終えます。

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