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2020年2月 4日 (火)

「立川談志を聴け」② 太陽が沈む時”ジュッ”と音がする

  

今日は令和2年2月4日。

  

前記事に引き続き、

立川談志を聴け」(山本益博著/小学館文庫プレジデントセレクト)

より引用します。

  

落語はそもそも”はなし”家と呼ばれ、噺とも咄とも書いてそれ

に当てた。つまり、いま思いついた言葉のようにしゃべる、口

から出まかせで話す、それが落語の話芸だった。

だから、噺はいつもファジーな状態でよいのだ。”完璧”を目指

そうとするから台詞も所作もすべて固定したくなってしまうの

であって、いつも揺れ動いているものなら、大切なことは何よ

り”即興”なのである。

高座はいつでも出たとこ勝負、観客との共同作業によって、は

じめて噺が成立するといってよい。これが談志の落語の特徴で

あり、危険をはらんだ魅力といえよう。

志ん朝の古典的様式美にのっとった、さながら役者の芝居がか

った長兵衛も見事だが、談志のあくまで人間のリアリティを追

究する脆(もろ)くて弱い長兵衛も、人間の真実の優しさにふ

れて素晴らしい。

(50~51p)

  

「長兵衛」は落語「文七元結」の登場人物。

実際に両者の「文七元結」を見て、比較してみたいです。

今の世の中、その気になればできます。

両者とも亡くなっているのに。

  

  

談志を知るには「やかん」がすごくいい。明治でも大正でもい

いから当時の速記本に出てくる「やかん」を並べてみると、い

かに談志のオリジナリティと独創性があるかがわかってもらえ

ていいかなと思う。

(136p)  

  

この本には、2つの「やかん」が掲載されています。

一つは「落語百選」(麻生芳伸編/ちくま文庫)に載ったもの。

伝統的な「やかん」

もう一つが立川談志さんの「やかん」

  

知ったかぶりのご隠居と八五郎の会話が楽しい。

特に面白かった談志さんの「やかん」の一部を引用します。

  

(八)「でも、地球は丸くて太陽の周りを廻っているんでしょ」

(隠)「バカが固まったな。オイ、しっかりしろよ、地球って

 なァ広いんだぞ。大きいんだよ。広大無辺なんだぞ。横浜か

 ら別府の方まで地球だぞ。お天道(てんど)様なんぞとくら

 べる奴があるか。太陽が地球の周りを廻ってるんだ」

「本当ですか」

「本当にも何にも、”日が昇る””日が沈む”ってのはあっち(天

 道)が動いてる証拠だろ。第一お前、天道なんてどのくらい

 の大きさだと思ってるんだ」

「・・・・まァ・・・・このくらい・・・・」

「そうだよ、朝日と夕陽の時にちょいと大きくなるだけで、あ

 とは、ここにあるお盆ぐらいのもんだ。そんなものと地球と

 一緒にする奴があるか。それに太陽ってのは間抜けなヤツだ。

 ピカピカ光ってて眩(まぶ)しいやい。昼間ァ明るいんだか

 らいらないんだ。夜出てこい。肝心な時に出てこねえ、間抜

 けなヤツだ、ありゃァ・・・」

「でもォ・・・」

「何が”でもォ”だ」

「ホラ先生、地球儀ってのがあるでしょう」

「あるよ、知ってるよ」

「あれで見ると地球は丸いでしょう」

「お前ネ、まさか文房具屋で売ってるもの(品物)なんぞ信用

 してるんじゃないだろうな・・・」

「・・・はァ・・・ねェ」

「何が”ねェ”だ。で、何だ」

「するとお天道さまは・・・・」

「東からでるだろ、で・・・・」

「”西に沈む”と・・・」

「そう」

「西のどこに沈むんです?」

「海だよ、西の海。(中略)」

「山に沈む時もありますよ」

「力の無い太陽は、時々海までいかないうちに山ン中に落っこ

 ちるのもいるが、ま、たいがいは海だ。海辺に行って太陽が

 沈む時、耳ィ澄まして聞いてると”ジュッ”て音がするよ」

「しますか」

「するよ。何度も聞いてるよ、俺は・・・」

「で、また次の日の朝、出てきますよ」

「新しいのがでてくるんだ」

「”新しい”のが、ですか?」

「そうさァ、海に沈んだら、太陽は”ジュッ”と消し炭みたいに・・・。

 お前太陽の燃えカスをみたことがないのか」

「ありません」

「だから妙なことを言い出すんだ、妙な奴らの言うことを信用

 するんだ。いいか、燃えてるもの(太陽)が海だぞ、水ン中

 に落ちりゃ、黒くなって消えちまう。それが次の日になると

 燃えて出てくるんだから、”新しいのが出てきた”と考えるの

 が、ごく正常、普通の人の考えだろうに・・・」

「で、また次の日も、出てきますけど」

「わからねえ奴だなァ、その次の日は早い話、三番目のが出て

 くるんだよ。順に順に出番を待ってるんだ」

「どういう風になってるんですかネ」

(191~195p)

  

読みながら笑ってしまったところです。

”ジュッ”がお気に入りです。

Youtubeで見ることができました。


YouTube: 【落語】立川談志 やかん

  

この動画の7分45秒あたりから、上記の「地球は丸い」

「太陽の方が動いている」話です。

授業で見せるならここからですね。

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