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2019年12月 9日 (月)

小説「出口のない海」①12月8日 日本は冷静さを失っていた

今日は令和元年12月9日。

  

小説「出口のない海」(横山秀夫著/講談社)は図書館に

返す本です。手元に置いておきたい文章を書き留めます。

 

外野のほうでマネージャーの小畑聡が土埃(つちぼこり)を

舞い上げていた。ロイド眼鏡が鼻で弾むほど懸命に走り、

そうしながら両手をメガホンにしている。

「日米開戦だ!日本がハワイの真珠湾を攻撃したぞぉ!」

うおっ、と剛原は吠えた。

「ついにやったか!」

胸のすく思いがした。日中戦争は暗くジメジメした感じがして

嫌だったのだ。勝っているのか負けているのかよくわからない

ままだらだら戦っているし、そもそも相手は日本と同じアジア

民族ではないか。アメリカは違う。腹いっぱい食ってるくせに、

このうえ貧しいアジアを食い物にしようとしている列強だ。相

手にとって不足はないーーー。

(17~18p) 

  

 

1941年12月8日の出来事として描かれたところです。

こんなふうに思った人がいたのでしょう。

 

関連して、昨日12月8日の朝日新聞「天声人語」を書きうつ

します。

  

天声人語

古い文章を読んでいて、この書き手には未来が見えていたのか、

と思うことがある。武者小路実篤の「日米戦争はまさかないと

思ふが」も、その一つだ。日本が米英との戦争を始める17年

前、雑誌「文芸春秋」に載った。▼「恐ろしいことは中々(な

かなか)起(おこ)つて来ないやうに見えて平気で起つてくる

ものである」。そう書き出す文章は、日米戦争のうわさが出て

いることを懸念し、そんな戦争がいかにばかげているかを論じ

ている。▼いわく、日米が戦えば結果は明らかだ。米国も損を

するだろうが、一番ばかを見るのは日本だ。戦争は国を富ます

のではなく貧乏にするものだ・・・。「日本の運命は今実に大

事な時で、狂ひかけてゐるのを感じる」とも。▼真珠湾攻撃か

ら戦争が始まったのが1941年12月8日である。残念なが

ら、その時の武者小路に非戦論者の面影はなかった。「真剣に

なれるのはいい気持(きもち)だ。僕は米英と戦争が始まった

日は、何となく※昂然(こうぜん)とした気持で往来を歩いた。

と開戦直後に書いている。▼文豪の変わりようは、冷静さを失

った日本の姿そのものであろう。国力の差に対する懸念は、勇

ましい声にかき消された。言論弾圧そしてメディアの迎合によ

り批判は失われていった。不況や貧困に対処できない政治は信

頼を失い、軍人に光があたった。▼非戦論者としての武者小路

は「人間の殺しあいや、武力で勝負をきめるなぞと云(い)ふ

時代はもう過ぎてしまつていゝと思ふ」と述べていた。その理

想は今もまだ成し遂げられていない。

   

※昂然=意気の盛んなさま。自信に満ちて誇らしげなさま。

  引用:goo辞書

  

  

情報はいろいろなメディアから得ていこうと思いますが、

冷静さは失わないようにしたいです。

上記のような文章を読むと、あらためてそう思います。

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