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2019年7月29日 (月)

「偉人たちのあんまりな死に方」4/アインシュタインの脳の扱われ方

 

今日は令和元年7月29日。

  

前投稿に引き続き、「偉人たちのあんまりな死に方

(ジョージア・ブラック著/梶山あゆみ訳/河出文庫)から

引用していきます。

  

すでにダーウィンはかなりの高齢である。

妻のエマは、研究をやめるようにと夫に釘を刺した。

ダーウィンは日誌に、夕食後の400万回目の

嘔吐と腹のガスについて記す。

この学者もまた、命あるすべてのものがたどる道を

行こうとしていた。

すべての虫が、すべての爬虫(はちゅう)類が、

すべての石楠花(シャクナゲ)がたどる道を。

時計の針は歩みをゆるめ、最期の時が近づいていた。

(中略)

もしも力が残っていたら、ダーウィンは健康日誌に

こう記したかもしれない。

「(妻の)エマが抱きしめて体を揺すってくれた。

いい気持ちだった。疲れた。私は死んだ」

1882年4月19日、チャールズ・ダーウィンは

心臓発作を起こして世を去った。73歳だった。

(172~173p)

  

  

スーパーウーマンのマリー(・キューリー)は、

二度目のノーベル賞は今度は化学の分野で受賞する。

第一次世界大戦中の数年間は、X線装置を載せた

大型車を運転して全国を回り、負傷兵の体内に食い込んだ

銃弾を見つけるのに力を尽くした。

研究に戻ってからはビーカーと実験バーナーを手に、

放射性物質を医療で利用する道を探りはじめる。

しかし、マリー自身にもなんらかの医療が必要だった。

黒くなった指先はひび割れて体液がしみ出し、

鈍くなった感覚をとり戻そうとマリーは絶えず指を

こすり合わせていた。

耳鳴りがひどく、頬はこけ、体は骨と皮ばかりである。

白内障も患い、両目がほとんど見えない。

初めにも書いたように、まさしく笑っている場合ではなかった。

体を壊しているのはマリーだけではない。

研究を手伝ってもらっていたかつての教え子は、

片腕をつけ根から切断する羽目になった。

アメリカでも、若い女性工員が時計の文字盤に

ラジウム入りの夜光塗料を塗る作業をしていて、

3年間に15人が命を落としたことが明るみに出る。

(180~181p)

  

  

◆ラジウム夜光塗料

ラジウム夜光塗料は暗闇で光る性質をもつ。

発光物質の結晶粉末にラジウムを混ぜてつくられた。

最初に使用されたのは1902年で、

時計の文字盤に塗るためだった。

1920年の時点では、すでに400万個以上の

腕時計や置時計に使われるまでになっていた。

また、家の番地を示す標識や、寝室用スリッパ、

釣りの疑似餌、劇場の座席番号、拳銃の照準器、

人形の目などにも使われている。

1990年代以降は使用が禁止されている。

(182~183p)

  

   

故人の遺志にそむき、近親者の許しを得ぬまま、

ハーヴィーは(アインシュタインの)脳をとり出した。

早く重さを量りたくてしかたがない。

誰もが感じていたことをついに自分が確かめるのだ。

つまり、アインシュタインの脳はほかの人より

大きいということである。

そう決まっている。

天井から吊り下げた秤(はかり)に脳を載せた。

およそ1.2キロ。キャベツ一玉分くらいである。

これだと平均的な脳よりやや軽い。

そんな馬鹿な!

ハーヴィーは有名になるチャンスをそうやすやすとは

手放したくなかったので、ホルマリン入りの瓶の中に

アインシュタインの脳を沈めた。

(中略)

トマス・ハーヴィーは記者の前で検死解剖の結果を報告する。

今やアインシュタインの脳が瓶の中に浮かんで、

臓器保管室に置かれていることなどおくびにも出さずに。

解剖室に戻ると、切り刻まれた遺体はすでに火葬に向けて

出発していた。 (189~190p)

  

  

最後に「訳者あとがき」から引用します。

  

何より、病気や死といった側面を見ることで、

偉業を綴った偉人伝を読む以上にその人への

親しみが湧いてくるから不思議なものだ。

どの人物もひどく人間的な存在に感じられ、

一般には「悪役」として位置づけられるような人であっても

妙に憎めない。なんとも愛おしくなってくる。

加えて興味深いところは、本書がさながら「恐怖の医学史」の

様相を呈している点だ。

病気の症状自体よりもはるかに過酷なのが、

施された医療である。

どれもその時代としては「最善の治療法」だったとはいえ、

何もしないほうが助かっただろうといいたくなるものばかりで、

気の毒なことこの上ない。

現代の医学にしみじみと感謝したくなる。

もっとも現代医学といえども「現時点で最善」というだけのこと。

著者が「はじめに」でも書いているように、

未来の人が現代をふり返れば「なんと野蛮な」と

絶句するかもしれない。

そうした医学の来し方行く末に思いを馳せたくなるところも、

本書の魅力のひとつだろう。  (200~201p)

  

  

今日読み切って、

今日中に引用したい文をうち終わりました。

この本中心の日でした。

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