「石狩に立つ虹」/ランプが燈って、文明開化
今日は令和元年10月1日。
本「石狩に立つ虹~新十津川物語3~」を読み終えました。
引用します。長い文章です。
きっと将来、ブログを読み直した時に、忘れてしまうと思うので、
引用文を読むときに必要な説明を書いておきます。
時は明治39年の春と思われます。
明治22年の台風による被害で、奈良県の十津川から
北海道の新十津川村に移住した人たちの話です。
主人公の中崎フキ。旦那さんは豊太郎。
子どもが長女あや、長男庄作。
この中崎家に、縁あって恭之助という年輩の男が
居候で一緒に住んでいます。
引用した文章中に「コトボシ」という言葉がでてきます。
照明器具のようですが、わかりませんでした。
調べました。
※阿蘇ペディアには、
木枠(きわく)に紙を張った提灯(ちょうちん)
と書いてありました。画像が欲しいと探しました。
※ジョンの部屋にありました。
中崎家は開拓農民。田舎に住んでいます。
何か買いたいと思うと、少し離れた街、滝川まで出かけます。
その日はフキと恭之助が滝川に出かけました。
以上が説明です。
いよいよ引用します。
石狩川の氷橋がきょうで通行禁止になるという日、
恭之助はにこにこしながらかえってきた。
フキもうれしそうだった。
「いいもんがあるぞ。あやも庄作もきてみな。
豊さんも出ておいでよ。」
家族が顔をそろえると、 フキは大きなにもつをといた。
「なんやと思う。おじさんが買うてくれたんよ。」
中からは見たこともないガラス器があらわれた。
「なによ、それ。」
庄作が手をのぱそうとするのを、フキはおしとどめた。
「わかった」
と、あやが手をたたいた。
「ランブやんか。」
どちらかといえば大きな声を出すことのすくない彼女がとびあがった。
「滝川のお店で見たことあるわ。ランプやんか。」
「そうさ、 ふんばつして買ってきたぞ。
なあに、はこびだした材木が高く売れたのさ。」
ほやをはずして石油をいれる。
火をつけると小屋の中は見ちがえるように明るくなった。
「どうだい、これがわが中崎家の文明開化というもんだ。
いままでのコトポシとは大ちがいだぞ。」
「ほんまや。」
「こうやっておいておくだけで、
おれは心ん中までばあっと明るくなるみたいだぜ。」
「ええものを買うてくれたの。」
豊太郎も目をほそめた。
ほやの中の炎は大きくのびあがって、まるで宝石のようにかがやいている。
「ただし、こいつは油をたんと食うようだから、
夜っぴて、ともしておくというわけにはいかねえよ。
恭之助はランプをつりさげるともうしわけなさそろにいった。
たしかにコトボシはホタル火のようにたよりなかった。
そのかわり、石油はひと冬に二合(0.36リットル)もあればたりた。
ランブだとそうはいかないだろう。
「よかった。」
と、フキはためいきをついていた
「どうしようかとおじさんとだいぶん相談したんよ.
そやけどこんなによろこんでもらえたら、
買うてきてよかったの。」
だが、子どもたちにはよいことばかりではないという。
しごとがひとつふえたのだ。
「朝になるとランプのほやをとりはずす。
それから布きれでもって中のすすをふきとるんだ。
わかるか。こいつばかりはおとなにはできやしねぇ。
ほら. おじさんの手は大きすぎてはいらないだろう。
だからランプそうじは子どものしごとだって。
そう神さまがおきめなすったんだって。」
「ずるい。」
あやはじぶんの手をながめた。
「うん、でもかまわん。 こいつはおれと庄ちゃんでみがくわ。
じゃあけどこんど買うときはおとなの手がはいるのをたのむわ。」
友だちにじまんできるのがうれしかった。
「よしよしわかった。」
恭之助はたばこをすいつけた。
(79~81p)
長く引用しましたが、とてもいいなと思い、
いつかまた読みたいと思った文章です。
まず、社会科的に勉強になる話です。
明治になって文明開化と言われますが、
石油ランプは、その象徴だったと思います。
※日本の洋燈(石油ランプ)の歴史(上の写真も)によると、
明治中期ごろになると東京ではほとんど石油ランプが
いきわたっていたようです。
そして日露戦争(明治37~38年)後の好況時代に
一層広く使わられようになったとありました。
引用文のように、北海道の開拓村にもやってきたのです。
幸せについて考える時にも、この引用文はいいなと思います。
高価なものを悩んで買って来たら、
家族が大喜びし、掃除の仕事が増えても、
「うん、でもかまわん。 こいつはおれと庄ちゃんでみがくわ。
じゃあけどこんど買うときはおとなの手がはいるのをたのむわ。」
と切り返す。幸せな家族だと思います。
ふだんは切り詰めて生活して、
たまに少し贅沢をして、家族全員が明るくなる。
我が家の洗濯機がこの頃不調で、
洗濯途中で勝手に止まってしまうことがちょくちょくありました。
悩んだ末に、新しい洗濯機を買いました。
新しい洗濯機がやって来た日、
家族はどんなのかのぞきに来ました。
そんな家族の様子を見て、父親も興味をもったようです。
室内も車いすで移動する身ですが、
「おれも見てみたい」と言うので、
車いすを押して連れていきました。
外見だけでなく、ドラム内も見たいというので、
すぐ近くまで連れていきました。
車いすに座りながら背を伸ばして、のぞきこんで見ていました。
「いいなあ」と真新しい銀色のドラムに感心していました。
父親を含め、みんながウキウキした時間でした。
たまには少し贅沢して、家族で幸せな時間を共有するのは
いいことだなあと思います。
引用した文書は、そんな様子を上手に表現していました。
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