「ペリリュー・沖縄戦記」③ 志をもった青年の死
今日は令和4年7月12日。
前記事に引き続き、
「ペリリュー・沖縄戦記」(ユージン・B・スレッジ著
伊藤真/曽田和子訳 講談社学術文庫)より。
大砲や迫撃砲を集中的に浴びせられるのは恐ろしいとしか言いよう
がない。しかし、身を隠すすべもない開けた場所で集中砲火に身を
さらすのは、経験したことのない者には考えも及ばない恐怖だ。ペ
リリュー島の飛行場を突破する攻撃は、私がこの戦争全体を通じて
味わった体験のなかでも最悪のものだった。間断なく炸裂する砲弾
のすさまじい爆風と衝撃ーーーその苛烈さは、ペリリュー島と沖縄
で直面したどんな恐ろしい体験をも超えていた。
(126p)
かつて、ペリリューの戦いをドラマに描いたものを見ました。
その時にも、この飛行場を突破するシーンは印象に残っています。
ここまでの作業を終えて一服していると、その晩の合言葉がタコ壺
からタコ壺へと口伝えで全員に周知される。合言葉にはかならず「
L」の文字を含む言葉が選ばれた。日本人が最も苦手とする発音だ
からだ。
(127p)
日本軍は、夜の闇にまぎれて、アメリカ軍のいる場所に侵入して、
ナイフを使って襲ってくるのです。
それに備えて、アメリカ軍は合言葉を周知したのです。
「L」の発音が苦手であることを、アメリカ兵は知っていたのですね。
「スレッジハンマー、おまえ、戦争が終わったら何をするつもりだ
?」と、向かいのベッドから戦友が訊いてきた。頭の切れる、知的
好奇心の強い若者だった。
「わからないよ、オズワルト。おまえは何をするつもりなんだ?」
「脳外科医になりたいと思ってる。人間の脳って実に驚くべきもの
で、すごく惹かれるんだ」
しかし、オズワルトの夢は実現することなくペリリュー島で戦死し
た。
(82p)
ロバート・オズワルトがひそんでいた浅いタコ壺の前を通った。オ
ズワルトが殺されたというのはほんとうかと、近くにいた兵士に訊
いてみた。悲しいことに、ほんとうだった。オズワルトは頭部に致
命傷を負ったという。人間の苦しみを少しでも癒すために脳の神秘
に挑みたいと、オズワルトは脳外科医を志していた。その明晰な頭
脳が、ちっぽけな金属の塊によって無惨にも破壊されてしまったの
だ。こんな無駄があっていいものか。国民の最も優秀な人材を台な
しにしてしまうとは、組織的な狂気ともいうべき戦争は、なんと矛
盾した企てだろうか。
(131~132p)
志があったのに、たった一発の銃弾によって、
その志は無になってしまいます。
どの兵士だって、そうだったと思います。
人材を台なしにしてしまう戦争は、やっぱりいいことはないのです。
われわれが動きを止めると、日本軍は砲撃をやめた。しかし三人で
も固まろうとしたり、一人でも動き出そうものなら、ただちに敵の
迫撃砲が火を噴いた。部隊全体が動きはじめると、大砲が砲撃に加
わる。ペリリュー島の日本軍の攻撃は見事なまでに無駄がなく、ど
の兵器を使うときも、決してむやみに撃ってくることはない。日本
軍は、われわれに最大限の損害を与えられるタイミングを狙いすま
して撃ち、チャンスが去るとただちに砲撃を停止する。
(134~135p)
肌で感じた戦場の様子がよくわかります。
突然、大きなはっきりした声が、きっぱりと言うのが聞こえたーー
ーー「おまえは生還する!」(中略)
世間では、天の啓示の声を聞いたとか幻影を見たとかいう話には懐
疑的な人が多い。私とてそうだった。だからこの謎めいたことは誰
にも話さなかった。しかしあの夜、私はペリリュー島の戦場で、た
しかに神が私に語りかけた声を耳にしたのだ。そう信じた私は、戦
争が終わったら有意義な人生を歩もうと決意した。
(142~143p)
著者は「おまえは生還する!」という天の声を聞きました。
そして生き残って、この本を書きました。
天の声は本当だったのか。
つづく
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