「泳ぐ者」/「なぜ」を中心にした時代小説
今日は令和3年6月12日。
この本を読みました。
「泳ぐ者」(青山文平著/新潮社)
こんな小説もあるんだなと思いました。
事件と遭遇した時に、
主人公が「なぜ」と思ったことを中心に
解き明かしていく。
見過ごしてしまいそうな「なぜ」を探っていく中で、
それぞれの人たちの事情が浮かんでくる。
おかげで読者はその事件のことをまるごと納得できます。
こんなに「なぜ」を中心にした時代小説があるんだなあ。
面白かった。
引用していきます。
科人(とがにん)の裡(うち)に棲む鬼を追い遣って・・・
(72p)
「裡」という漢字が気になりました。
普通なら「内」という漢字を使うところ、
この本では「裡」が使われていました。
なんてこったと胸裡で己れを罵倒しつつ男を捕縛する。
(157p)
ここでは「胸裏」と書くところを「胸裡」とありました。
「裡」
この字について調べました。
※goo辞書から引用します。
①うら。衣のうら。物のうらがわ。 ②うち。なか。内部。
③…のうちに。
[参考]現代では「…のうちに」の意で使われることが多い。
「極秘裡」「秘密裡」
確かに「極秘裡」「秘密裡」という時の「裡」です。
(書けと言われたら書けなかったでしょう)
風がすっと動いて、正嗣は薬草の庭に目を遣る。そして、おもむろに
つづけた。
「こんな話をしてよいものかどうか・・・」
キキョウやゼニアオイはまだ咲いている。
「お話しいただけるなら、なんであれ、ありがたく」
雲を掴むように直人は話を訊いている。己れの問いが的を射ている自
信はまったくない。正嗣のほうから話してくれるなら願ってもなかっ
た。
(75p)
「なぜ」を知りたくて、話を訊いている時の細かな心情が
書いてある部分でした。感心しました。
「大きなことをやるには、小さなことをきっちり詰めるのが必須で
す。勘定所に些事(さじ)はない。どんなに細かなことでも手抜き
なく仕上げてこそ勘定所です。で、あれはどうなっているとか、あ
れと比してどうだとか、あれの前例はどこにあるとかいう、大量の
”あれ”が日々生まれるわけです。”あれ”が”あれ”を生んだりする」
澄まし汁のように味噌が薄い蜆汁を吸ってからつづけた。
「誰かにその大量の”あれ”を尋ねたとしたら、三割即答できれば天
才、五割を答えたら神か仏です」
(80p)
これは教員の仕事でも同じだと思います。
ここが堪(こら)えどころと制して法泉寺の門前にあった蕎麦屋で
チロリとせいろを頼んだ。
一日中歩き回って、聞き漏らしちゃならない話を聞きつづけたせい
だろう、一本のチロリがずいぶん効く。
(104~105p)
「チロリ」が何であるのか気になりました。
この容器がチロリのようです。
ビール飲みにはわからない用語でした。
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