「自転しながら公転する」② 地球上にいるだけで十分回っている
今日は令和2年12月19日。
前記事に引き続いて
「自転しながら公転する」
(山本文緒著/新潮社)より。
(貫一)「お洒落って人と違うのがいいんじゃないのか」
(都)「浮かないのが何より大事なの。みんなと同じような服で、でも
細部がちょっと違うってところが大事なの」
(貫一)「じゃあ服屋なんてあんなに沢山なくてもいいんじゃね?」
(都)「でもさ、たとえば車なんかは私にはほとんど同じデザインに見
えるよ。みーんな尖った顔して釣り目でさ、でもいろんな会社でちょっ
とずつ違うのを売りたいんでしょ?それが商売なんでしょ?それと同じ
だよ」
(貫一)「なるほどな―、面白れえな」
(72p)
車のたとえで貫一と同じように納得した会話です。
会社が違うけど、よく似た車はあるもんなあ。
自分は今はスバル重視。
(都)「(前略)でもさー、いざそうなってみると、私やっぱりママの
こととか家のこととか、目を逸らしたくなっちゃたんだよね。なんで私
がここまでやんなきゃならないとか、不平不満が爆発しそうでさー。家
事をやりつつ、家族の体調を見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そん
な器用なこと私にはできそうもない。でも世の中の、たとえば子供いる
人なんかは、みんなそうしているわけでしょ。ジャグリングっていうの、
あのボウリングのピンみたいなの、四本も五本も一斉に回しているみた
いな生活を毎日してるんでしょ。なのに私、これしきのことで、なんか
頭がぐるぐるしちゃって」
(貫一)「そうか、自転しながら公転してるんだな」
(都)「は?」
貫一はカウンター越しに自分と都の分の酒を頼んだ。
「なあ、おみや」
彼は顔を寄せて都に囁いた。
「地球はどのくらいの速さで、自転と公転していると思う?」
「そんなの知らないよ」
「地球は秒速465メートルで自転して、その勢いのまま秒速30キロ
で公転してる」
都がぽかんとする。
「地球はな、ものすごい勢いで回転しながら太陽のまわりを回ってるわ
けだけど、ただ円を描いて回ってるんじゃなくて、こうスパイラル状に
宇宙を駆け抜けてるんだ」
貫一は炒め物の皿に残っていたうずら卵を楊枝で刺し、それを顔の前で
ぐるぐる回した。
「太陽だってじっとしているわけじゃなくて天の川銀河に所属する2千
億個の恒星のひとつで、渦巻き状に回ってる。だからおれたちはぴった
り同じ軌道には一瞬も戻れない」
「さっきから何言ってんの?」
「いや、面白いなって思って。おれたちはすごいスピードで回りながら
どっか宇宙の果てに向かってるんだよ」
(74~75p)
引用が長くなってしまいましたが、
本のタイトルの由来になった文章です。
地球上にいるだけで、十分回っているんです。
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