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2020年4月 6日 (月)

「続横道世之介」③ 「すでにゴール切ってる感じする」

  

今日は令和2年4月6日。

  

今日のお昼に、4月19日までの休校延長の連絡がありました。

やはりそうかという気持ちでした。

前代未聞の事態が続きます。

何にエネルギーを使うのがいいのか、模索しています。

  

  

とりあえず、読み終えた本からの引用をします。

「続横道世之介」(吉田修一著/中央公論新社)より。

  

 東京の戻ると、めっきり寒くなっていた。

 アルミサッシの溝に、隙間風防止の古タオルを押し込んでいるの

は世之介である。このライジング池袋、鉄筋コンクリート造りのわ

りには安普請で、とにかく隙間風がひどい。特に玄関ドアの下が顕

著で、明らかに寸法を間違えて注文したとしか思えないドアの下に

は、隙間と呼ぶには広すぎる空きがあり、酔っぱらったコモロンが

真冬に泊まったことがあるのだが、床に寝かせたせいで、翌朝、凍

死しかけていた。

(232p)

  

「隙間と呼ぶには広すぎる空き」

この言い回しというか、文体がいいんだよなあ。

  

新しい彼女(桜子)の実家が営む自動車整備工場で

働くことになった世之介。

  

作業に集中すればするほど、充実した気持ちになる。技術のない世

之介に与えられるのは単純作業が多いのだが、それがまったく苦に

ならない。自分で認めるのも憚られるが、世の中には亮太の実の父

親のように冒険が似合う男もいれば、自分のようにこうやってボル

トやナットを選り分ける仕事がぴったりと合う男もいるのだと思う。

(274p)

  

私は、こうやって読み終えた本から、

印象に残った文章を書き留めることが楽しい。

これが私には似合う?

やっぱり自分で言うのは、憚られます。

  

さ~て、次の文章。

  

世之介と桜子のたわいのない会話に、

後ろから(寿司職人になることを夢見る)浜ちゃん(女性)が

声をかけます。

  

(世之介)「・・・あ、そうだ。じゃあ、あの焼肉のタレ、買っと

こうよ」

 以前、試して大正解だったタレを世之介が思い出すと、

(桜子)「ああ、あれ、美味しかった。塩ダレのやつだよね?」

 と桜子も頷く。

 早速、調味料売り場へ急ぐ世之介の後ろから、なぜか浜ちゃんの

笑い声がする。

「え?何?」

 と世之介が振り返れば、

「いた、別になんでもないんだけどさ。・・・なんか、二人とも地

に足ついてんなーと思って」

 と、更に浜ちゃんが笑い出す。

「え?所帯くさいってこと?」

 と桜子が冗談半分で睨み返すと、

「違う違う。なんかさ、すでにゴール切ってる感じする」と浜ちゃん。

「何、それ?」

 思わず世之介と桜子の声が重なった。

「いや、だからさ、幸せそうだってことよ。なんか私にしても、コ

モロンにしても、みんな、いろんな夢を追ってるじゃない。でも、

結局、そのゴールってさ、こうやって楽しそうにスーパーでちらし

鮨買ったり、美味しかった焼肉のタレ、探したりすることなんじゃ

ないかなって」

 浜ちゃんの言葉は心からのものなのだが、いかんせん、幸せなと

きには幸せが実感できないものである。

「何、それ、私たちのことバカにしてるでしょ?」

 とは桜子で、

「してないって」

 と、慌てる浜ちゃんに、

「いや、してるね。でもいいもんねー。どうせ俺たちは20パーセ

ント引きのちらし鮨カップルですから」

 と、へそを曲げる大人気ない世之介である。

(278~279p)

「幸せ」について考えさせてくれる文章です。

こういう雰囲気が「幸せ」のベースなんだよなあと思います。

このベースがあるなら、安心して日々過ごせるのだと思います。

めざして勝ち取るすごいものではなくて、

真面目に生きていたら、そして善意で生きていたら、

じわじわッと下からにじみ出てきて

足もとにできあがってくるものだと思います。

この本を読んでいて、そう感じました。 

  

  

今晩はここまで。

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