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2020年3月17日 (火)

「星ちりばめたる旗」を読む② 「せつない」という日本語

 

今日は令和2年3月17日。

  

前記事に引き続き、

「星ちりばめたる旗」(小手鞠るい著/ポプラ社)

より引用します。

   

  

当時、私の気に入っていた言葉のひとつに「せつない」という日本

語があった。「アイム・サッド」でも「アイ・ミス・ユー」でも「

アイ・フィール・ブルー」でもない、曰く言い難い微妙な感情が「

せつない」という言葉で言い切れてしまう。好き、でもなく、愛し

ている、でもなく、でも恋しくてたまらない、というような気持ち。

彼に会って、楽しい時間を過ごしたあと、彼と別れるときにはいつ

も「私はせつない」と、日本語で思っていた。

(81p)

 

これも日系アメリカ人3世の思いです。

   

日系アメリカ人1世の大原幹三郎は、

マスクメロンづくりに挑戦していました。

  

サンダーストームに備えて材木で補強しておいた入り口の戸をあけ

て、幹三郎はハウス内に足を踏み入れた。その瞬間、もわっとした

南国の空気に包まれる。常夏の空気を胸いっぱい吸い込むと、微か

ではあるけれど、微妙に鋭い、神秘的な香りに鼻腔をくすぐられる。

「はぁ、ええ匂いじゃ」

思わず知らず、ひとりごとがこぼれ落ちる。

この匂いをいったい、何にたとえたらいいのか。いつ嗅いでも、幹

三郎にはわからない。書物を読んで知識を得た佳乃の話によれば「

マスクメロンの『マスク』には、麝香(じゃこう)という意味があ

るそうです」ということらしいが、そもそも麝香とは、どんな香り

なのか。

「それは、おまえらの、この香(かぐわ)しい匂いなんよなぁ」

天国の香りかもしれない、などと思いながら、幹三郎は腰を曲げ、

手塩にかけて育て上げた苗木たちに話しかける。

(93~94p)

   

この文章も、以前の知識と結びつきました。

私も麝香の香りがわかっていません。

参考:ここでも道草 日めくりより/「マスクメロン」の「マスク」の由来(2019年6月19日投稿)

      

    

玄関から前庭に張り出しているポーチで、大原佳乃は、お気に入り

の揺り椅子に腰を沈めて、お気に入りの江戸川乱歩を読んでいる。

好きな作家は、ほかにもいる。内田百閒、長谷川如是閑(にょぜか

ん)、谷崎潤一郎、稲垣足穂(たるほ)、佐藤春夫・・・・ほかに

もまだまだ。育児、家事、畑仕事の手伝い、近所づきあい。体がい

くつあっても、時間がどれだけあっても足りないと思えるほど忙し

い日常のなかで、わずかな暇を見つけては、佳乃は活字の世界ーー

海かもしれないーーに身を浸す。作家の言葉によって創られた、こ

の世に存在しない人間の、実際には存在しない人生の物語を読むこ

とによって、なぜ、こんなにも心が豊かになり、現実の人生まで生

き生きとするのか。佳乃には不思議でならない。

(104p)

   

昨日、中学校の図書館に入り、この本を開いたおかげで、

今朝まで私の頭の中は、20世紀初頭から太平洋戦争中の

在米日系人の生活に染まっていました。

  

  

裸一貫、ふんどし一丁でアメリカに渡ったのは1904年の春。弱

冠17歳だった日本男子が、苦行にも似た船旅の果てに、栄養不足

のために霞んだ視界にアメリカ大陸をとらえてから26年が過ぎ、

いわゆる棄民ーー国内におけ人口膨張を緩和するために、当時の日

本政府は主に地方の農村の男子を対象として、アメリカへの移民を

奨励していたーーに過ぎなかった男が、アメリカで成功した移民一

世となって家族を引き連れ、故国にもどってきたのである。これが

凱旋でなくてなんだろう。

(140~141p)

  

明治時代以降の日本の人口急増のため、

諸外国への移民が奨励されたようです。

今の日本にはない状態です。

  

  

つづく

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