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2020年2月26日 (水)

「白村江」② 倭国は白村江の戦いでわざと敗北した?

 

今日は令和2年2月26日。

  

前投稿に引き続いて、

白村江」(荒山徹著/PHP研究所)

より引用していきます。

  

  

仲夏六月に入ってまもなく、最上級班に属する子供たち30人

余りは、残留組の子供たちの羨望の目に見送られ、夜明けとと

もに河内に向かった。針麻呂(はりまろ)ら数人が引率した。

胆駒山(いこまやま)から望む河内湖の全容は、豊璋たちを驚

かせるに充分だった。昔はもっと大きかったが、今では干拓が

急速に進んでいるのだという。大地に大きな鏡を嵌(は)めこ

んだように燦然(さんぜん)と光る湖には、大小数十本の河が

平野をくねりながら流れ込み、それらが描く文様は複雑で、遠

目には銀蛇、あるいは光龍(こうりゅう)が群れをなして自在

にうねくっているかと映じた。

(189p) 

  

「河内湖」について以前書いたことがなかったか検索しましたが、

見つかりませんでした。

以前から関心はあった河内湖。

この小説に登場しました。

※参考:水都大阪 古代大阪の変遷

☝ ここに載っていた地図の転載です。

History_2_2  

こんな大きな湖があったのですね。

  

  

蘇我入鹿が豊璋と田来津に語ったところ。

 

「人間は強運でなければならない」

入鹿は二人に等分に目を呉れながら言葉を継いだ。

「何事かを成し遂げる人間には努力、才覚が必要であるのはも

ちろんだが、最終的には運がものを云う。それがなければ、淘

汰されてしまうんだ。虚(むな)しいことにね。おまえたちは

二人は稀に見る強運の持ち主だ。嵐の海で死ななかったことが

一つ。二つ目には、四里の海は泳ぎ切ったーーー」

(212p)

   

歴史書に残った入鹿、豊璋、田来津は3人とも

強運だと思います。

  

 

小説のラストで、葛城皇子が豊璋らに”策略”を言う場面。

この”策略”は葛城皇子(中大兄皇子)と、

新羅の金春秋との間で結ばれた約束を含む”策略”でした。

  

「考えてもみよ、百済王。倭国が支援せぬとなれば、鬼室福信

は百済だけの力で頑張り抜こうとしただろう。他に頼る者もな

いからには団結力も強くなる道理だ。だが、なまじ倭国の軍事

的支援を期待したがために、心に緩みが生じた。それが内紛に

つながった。そして肝腎要(かんじんかなめ)のところで倭国

水軍が唐水軍に敗れて逃げ帰ったとなれば、その結果はどうな

るか。頼みの綱である倭国にそれ以上は期待することができず、

ここ周留城だけではなく、百済旧領の各地で戦っている復興軍

の将兵誰もが落胆し、再興の望みを失い、抵抗を止めてゆくだ

ろう。唐、新羅のほうでは大勝利と喧伝(せんでん)するはず

だ。その実、大した勝利でもないのだが、皆が皆、自分の目で

見たわけではない。結局は宣伝がものをいう。我らとしても、

でき得る限り敗北感を演出してみせるつもりだ」

(豊璋)「それが?そんなことが、あなたの狙いだったという

のですか?さっぱりわけがわからない。倭国に唐が敗北したと

いう汚名を内外の歴史に残し、それで何が得られるというので

す」

(葛城)「人だ」

(豊璋)「何ですって」

(葛城)「唐の制度に学んだ百済の百官百僚たち。わたしは彼

らが咽喉(のど)から手が出るほどに欲しいのだ。彼らを手中

におさめる。それがわたしの狙いだ。福信らが百済復興運動に

邁進(まんしん)し続ける限り、彼らはその指揮下で働かなく

てはならぬ。復興させる価値などない祖国のため、徒(いたず

ら)に命を捧げることになるのだ。何と虚しいことか、何とも

ったいないことか。律令の実務に通じた彼らが、そのようなこ

とであたら落命してゆくなど。・・・・・(後略)」

(429~430p)

    

葛城皇子が本当にここまで考えて、

白村江の戦いで敗北したのでしょうか?

もし本当なら、恐ろしい”策略”です。

百済という国を捨て駒にして、皇子が利を得るのです。

深謀遠慮な”策略”です。

新羅の金春秋と約束を交わし、春秋が亡くなっても、

約束は息子に受け継がれました。

16年間かけての”策略”でした。

  

  

この本を読んだことで、

白村江の戦いを生徒に教える時の心構えが変わったと思います。

葛城皇子は、わざと敗北した可能性もあると迷いながら

教えることになりそうです。

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