「シリア内戦」④ アメリカとロシアの参戦
今日は令和2年1月12日。
前記事に引き続き、
「シリア内戦」(安武塔馬著/あっぷる出版社)より
引用していきます。
ISILやヌスラ戦線(NF)のような強硬なジハーディスト
は、そもそも民主主義を信じないので、「既存の政治システム
(民主主義)に参加しながら、緩やかな社会のイスラム化を目
指す」というMB(ムスリム同胞団)の政治戦術も否定する。
そんなまだるっこしいことをやっていても、社会のイスラム化
は達成できない。目的のためには聖戦あるのみ・・・。これが
ジハーディストの思想だ。
(208p)
世界にはそう考えて実行している人たちがいます。
核保有国イスラエルと40年来対峙するアサド政権が、「貧者
の核」たる化学兵器を取得あるいは開発していないことは、お
よそ考えられない。アサド政権軍がマスタード・ガスやサリン
など、大量の化学兵器を備蓄していることは公然の秘密である。
(211p)
2013年8月21日に政権軍は、ダマスカス郊外で
化学兵器を使用。1000人以上の死者が出ました。
アメリカのオバマ大統領は、アサド政権が化学兵器を使用したら、
軍事攻撃をすると宣言していました。レッドラインでした。
しかし、踏み切れずに、ロシアの出した提案に乗りました。
米国が2013年9月に対アサド軍事攻撃を回避したことは、
おそらくはシリア内戦史上の最大の転機だろう。この決定がそ
の後の情勢に及ぼした影響の大きさ、深さは計り知れない。唯
一の超大国が、自ら引いたレッドラインを公然と踏み破られた
のに、懲罰行動をとらなかった。しかも、それを正当化するた
めに、よりによってアサド政権の庇護者であるロシアの提言を
受け入れた。中東における最大・最強の政治的・軍事的プレー
ヤーである米国の権威が完全に失墜した瞬間である。
(218p)
政治の難しさを感じた場面です。
著者は米国の権威が失墜した瞬間と書いていますが、
なぜオバマ大統領が踏み出せなかったかも分析しています。
それはそれで理由があるわけです。
命がかかった政治的な決断は、
本当に難しいことなのだと思った出来事でした。
ISILはアル・カーイダ(AQ)と違い、過激な反シーア派
思想に凝り固まっている。ISIL相手の敗北はシーア派にと
っては皆殺しか、奴隷化を意味する。イラクのシーア派国民に
とりISILとの闘いには生死がかかrが、それはシーア派国
家イランにとってもまったく同じことなのだ。
(イラン)革命防衛隊コドゥス軍のスレイマーニ司令官は、モ
スル陥落後に多数の軍事教官とともにイラク領に入った。そし
てイラク政府軍やPMCの民兵、さらにはペシュメルガさえも
指揮して、ディヤーラ県やジャルフ・サクル等の要衝でISI
Lを相手に戦うことになる。もしイランのこの迅速な軍事介入
がなえれば、あるいはバグダードやナジャフ、カルパラ等もI
SILに蹂躙されていたかもしれない。
(257p)
アメリカ軍に殺されたスレイマーニ司令官も登場しました。
彼はイラン革命防衛隊を率いて、アサド政権側で戦っていました。
しかし、ISILに対しても戦っていたので、
後にその点に関してはアメリカ軍と狙いが一致していたのです。
(2014年)8月7日の夜、オバマ大統領はホワイトハウス
で記者会見を開き、ISILによるエルビル攻撃をふせぐため、
米空軍が限定的に空爆作戦を実施すると発表した。
(273p)
アメリカは翌9月には、
シリアでもISILへの空爆を開始します。
シリア内戦は複雑化します。
アサド政権と政権打倒のめざす数多くのグループとの闘いと、
ジハーディストであるISILとの闘いです。
政権打倒をめざすグループはさまざまであり、
欧米諸国は、どのグループを指示して政権をとらせようか
決めかねていました。
そこに残虐なISILの予想以上の台頭。
アメリカ軍はついに参戦しました。
(2015年)9月末、国連総会出席のため訪米したプーチン
は、総会演説に先立ちオバマ大統領と会談した。
オバマはアサドこそがシリア紛争の元凶であり、アサドが居座
る限り、紛争解決はない、との立場を繰り返し主張した。そし
て、アサドの立場を強化するため軍事介入しないように。プー
チンに警告した。
これに対しプーチンは、ISILをはじめとする凶悪な「テロ
リスト」と勇敢に戦っているのはアサド政権だけであり、支援
しないわけにはいかない、と主張した。また、アサドを排除す
るかたちでの紛争収拾策に反対する立場も取り下げなかった。
(307~308p)
ロシア軍が2015年9月にシリア参戦。
アサド政権側につきました。
おかげでアサド政権は持ち直しました。
内戦はさらに続きます。
2015年9月以降、シリア上空は、シリア政府軍に加え、米、
露、仏、英、豪、ヨルダン、サウジ、トルコ、イスラエル等
十か国以上の空軍が作戦行動を行う、おそらく世界一の過密空
域となった。
(319p)
つづく
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