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2019年10月13日 (日)

「朝焼けのピンネシリ」/関東大震災の描写

  

今日は令和元年10月13日。

  

前投稿に引き続き、本「朝焼けのピンネシリ~

新十津川物語5~」(川村たかし著/偕成社)より。

  

まさか、北海道の話なのに、

関東大震災の描写が出てくるとは思いませんでした。

主人公の中崎フキの長男庄作が東京勤めで、

次男の豊彦が兄をたよって上京したタイミングで、

その描写が登場しました。

 

豊彦は浅草十二階が崩れるのを見ていました。

  

「ひょうたん池へにげろ」

だれかの声につられて人びとが方向をかえた。

彼(豊彦)はいつのまにか三十ぐらいの女の手を

にぎって走っていた。

女はなにかさけんだがきこえなかった。はだしだった。

ひょうたん池まできたとき、

凌雲閣の上部がくずれおちていくのが見えた。

十二階の八階あたりからさけたようになって、

右手へとたおれた。

わるい夢を見ているようだったが、これは現実だった。

その証拠に豊彦は見も知らぬ女の手をけんめいににぎっていた。

手の中はあせまみれだった。

はなそうとすると、女はすがりつくような目をした。

彼はそのままにした。

十二階がたおれた方角から、

血だらけになった人々がにげてくる。

どこからともなくけむりのにおいをのせた風が、

すっとながれた。

(224~225p)

 

浅草十二階は関心のある建物。最近はここで書きました。☟

ここでも道草 「いだてん 23 大地」その1/午後8時21分(2019年6月17日投稿)

☝ その2、その3もあります。

  

被害者が多かったことで有名な本所被服廠跡地、

対称的な浅草観音境内の様子が連続で描写されました。

  

おなじ場所(浅草観音境内)から、隅田川をななめにはさんで、

南へ一・六キロの場所にある、本所横網町の被害は

無残をきわめた。

そこは陸軍の被服廠あとがひろびろとした空き地になっていた。

 

人びとがひしひしとにげこんだころ、

南のほうから巨大な大旋風がおそいかかった。

黒い煙幕のようなものがちかづいたと思ったとたん、

かわらが木の葉のように舞いあがった。

まるで百羽のスズメがいっせいにとびたつようだった。

黒いうずまきは、のしかかるようにちかづく。

  

広場でゆうゆうと談笑したり、

写真をとっていたりしていた人たちが、

たちまち空にすいあげられた。

荷車は馬とともに中空に舞いあがった。

はこんできた畳や荷物は空にはねあがる。

大木はねじ切られ、あたりはごうごうとうずまく

黒煙につつみこまれた。

 

そこへ火の粉がふりそそいだ。

荷物が火を吹き、もえながらとぶ。

服がもえだし、着物がくすぶる。

しばらくするとぱっと炎につつまれた。

死体の山がつぎつぎと生まれた。

あとからくる人は、すべる足をふみしめ、

死体をのりこえて走った。

が、まるで自然発火でもするように、

じぶんもたおれ伏してはもえた。

  

苦しまぎれに土につめを立ててくぼみをつくり、

土の中の空気をすっていると、髪に火がつく。

とたんにはねかえって絶叫し、焼けていく人もある。

死体はるいるいと山をなした。

  

この広場で死んだ者は約三千八千万人、

助かったのは二千人にすぎなかった。

死体の下にうもれて生きのびたのだが、

ほとんど全員がけがをし、

はだかにちかいすがたであちこちへ散っていった。

  

ところが浅草観音だけは焼けのこった。

ここには約十万人がつめかけていた。

火は周囲をとりかこみ、夜には風も出た。

寺に火がはいったなら、被服廠あとよりも大惨事に

なったことだろう。

焼けのこったのは、人びとが力をあわせて池の水を

バケツリレーして、火の粉をけしたからだった。

浅草公園の消防隊ポンプも休むことなく放水をつづけた。

 

境内にも旋風がうすまいて、石どうろうがたおれた。

さんさんと火の粉がふりかかったが、

火がうつるのを見こして、

荷物をむりやりすてさせたのがよかった。

とび(鳶)の頭(かしら)さしずだったという。

(226~227p)

  

  

さすが「サーカスのライオン」の作者です。

タタタタターンと描写しきっています。

読んだだけで、図書館に本を返却するのが惜しくて、

書き残しました。

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