「明日をさがす旅」② シリア市民を襲う各軍/ボートで地中海をわたる
今日は令和2年2月11日。
昨日の記事の続きで、
「明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち」
(アラン・グラッツ作/さくまゆみこ訳/福音館書店)
より、印象に残った文章を引用します。
次の日の朝、一家はほかの人たちに出会った。
何十人、何百人もの人たちだ。マフムードの一家と同じように、
シリアにある家を捨て、北にあるトルコをめざして歩いてきた
難民たちだ。安全を求めて、マフムードの一家は、その人たち
の中にまぎれこみ、マフムードが望んでいたように目立たない
存在になった。よろよろ進んでいく難民の群れの中にいれば、
アメリカ軍のドローンも、反乱軍のロケット発射装置も、シリ
ア軍の戦車も、ロシア軍のジェット戦闘機も無視してくれる。
爆発音が聞こえたり煙が見えたりすることもあったが、戦場か
ら出ていく数百人あまりのシリア人にかまう者はいなかった。
(114p)
各軍の攻撃方法の特徴が示されています。
どの軍も、どの方法も、街に住むシリア人にとっては脅威。
トルコのイズミールというところから、ゴムボートに乗って、
ギリシアまで行こうとするマフムードたち難民。
ゴムボートはすし詰め状態で出発します。
土砂降りの雨と、逆巻く波の間をボートは、進んでいく。すで
に10時間もたったような気がするけど、まだ10分しかたっ
ていないのかもしれない。マフムードにわかるのは、今すぐこ
の状態を終わらせたいと自分が思っていることだ。これはアレ
ッポにいるよりひどい。空襲よりも、銃撃戦よりも、頭上をド
ローンが飛ぶよりも、ひどい。アレッポにいた時は、マフムー
ドは少なくとも走ったり、かくれたりすることができた。ここ
では、自然の言いなりになって、大きな黒い海のただ中で、見
えない黒いゴムボートの中の、見えない茶色の点になっている
しかない。海は、その気になれば、大きな口を開けてマフムー
ドをのみこんでしまうだろう。そうなれば、自分がいなくなっ
たことさえ、広い世界のだれにも知られることはないのだ。
(183p)
ぐいぐいとくる文章です。
最後の一文が重い。
「著者あとがき」で、次のように書いています。
国連移住機構によれば、2015年には、3770人以上が、
ボートで地中海をわたろうとして命を落としたそうです。
(406p)
事実に基づくフィクションです。
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