「橙書店にて」⑤ 「道ばたのお地蔵さんのようなものだよ」
今日は令和2年1月20日。
前記事に引き続いて、「橙書店にて」
(田尻久子著/晶文社)より引用します。
店内も花が咲き乱れている。いただきものの花が重なって、ト
サミズキに梅に椿と、春の花の香りが店内を満たしている。(
入院している)豆子さんが見ているのと同じ梅を、私たちも見
る。トサミズキは初めてもらったが、花の付き方が独特で見飽
きない。黄色い小さな花が連なって下を向いてかんざしのよう
に咲いている。しゃらしゃら、と音がしそうだ。
(190~191p)
花の付き方が独特という点に共感。
7年前に記事にしていました。
※ここでも道草 H25 3月の花々20 トサミズキ(2013年3月26日投稿)
店を目指して来てくれるお客さんも、旅行中にいらっしゃるお
客さんも、もちろん嬉しいが、ご近所さんがふらっと来てくれ
るというのはまた違った嬉しさがある。安心感とも言えるかも
しれない。切らした洗剤を買いに来たり、隙間の時間に本を探
しに来たり、もしくはひとこと伝えたいことがあるだけだった
り。
(203p)
いろいろなお客さんがやってくる小さな本屋。
行ってみたいし、自分もそんな店の店主になりたいと思いました。
橙書店では朗読会が行われました。
今年は”飛び入り朗読会”を店で開催した。正午から夕方五時まで、
店の真ん中あたりに設置したマイクの前で読みたいお客さんが勝
手に朗読する、という催しだ。(中略)
数人が読んだあと、ミチコさんが「なんでもおまんこ」を誰か読
めばいいのに、と言い出した。『夜のミッキー・マウス』という
谷川俊太郎さんの詩集に入っている詩だ。なにせ、店内には谷川
さん直筆の「なんでもおまんこ」の一節がある。他の人たちも話
に乗って来て、やっぱり男の人が読んだほうがいいよね、などと
言っている。もう終わりかけの時間で男性は二人しか残っておら
ず、一人は大学生になりたての若いお兄さんだったからさすがに
みんな遠慮して、陽介くん読みなよ、ともう一人に白羽の矢が立
った。
「なんでもおまんこなんだよ」とはじまる詩だから嫌がるかなと
思ったら、しょうがないなあ・・・といった感じで立ち上がり、
思いのほかすらすらと読んでいた。
(207p)
楽しい雰囲気です。私は「なんでもおまんこ」という詩を
知りませんが、何となく予想がつきました。
でも実物を見てみたいと思い、実行しました。
思ったよりリアルで、思った以上に自然を謳歌した詩でした。
終わり方は予想外。
つまり予想は見事にはずれました。
私は店でいただきものばかり食べている。こんなにモノをもら
う人見たことない、と元スタッフのユキコちゃんに言われたこ
とがあるくらいだ。店など営んでいる人は、結構差し入れをも
らったりする。でも、そう考えたとしても、もらいすぎだと言
われる。たぶん一年のうち、三百日くらいは何かもらっている。
(219p)
もらうたびに、いただいてばかり、と申し訳ない気持ちになっ
ていたが、道ばたのお地蔵さんのようなものだよ、と言われて
からは気が楽になった。
(222~223p)
「道ばたのお地蔵さん」!うまいこと言うなあと思いました。
あらためていい雰囲気のお店だと思う記述です。
う~ん、これで書き留めるのを終えようと思いましたが、
イメージが残っている文章がもう一つあります。
気になってしまうので、最後にもう一つ書き留めます。
Aさんは、本屋をはじめてから来るようになったお客さんだ。
年は七十代後半というところか。いつもこざっぱりした服を着
て、ひょうひょうとしている。ブコウスキーやケルアックがお
好みで、浅川マキもごひいきだ。
ここは、みょうなか本ばっかり置いとるけん、つぶれんごつ買
わんといかん。
そう言いながら買ってくださる。売れなさそうな変な本ばかり
並べているから店が成り立たないだろう、つぶれないよう私が
買ってあげようという意味だ。だいたいいつも一冊購入される
が、買いたい本がないときは喫茶だけ利用される。煙草を吸い
ながら、珈琲を一杯。
(67p)
こういうAさんのように老後を過ごすのは
いいなと思って読みました。
Aさんのセリフもいい。
でも我が家の近くには、こんな本屋兼喫茶店がありません。
そもそも本屋が歩いて行ける距離にありません。
う~ん、小さな図書館はありますが、
読むスペースが少ない。う~ん。
以上で「橙書店にて」からの引用を終了。
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