ポンペイ8/ポンペイの落書きの数は1万点
今日は7月24日。
7月18日に引き続き、ポンペイのことを書きます。
「古代ポンペイの日常生活」
(本村凌二著/講談社学術文庫)より。
この本は、ポンペイに残された落書きについて
書かれたものです。
いったいどれくらいの数の落書きが、
ポンペイの遺跡にはあるのでしょう。
その答えは、「エピローグ」に書いてありました。
引用します。
(前略)一万点以上も残存する落書き。
古代に現実の市街地を歩けば,壁の落書きは
もっともっと目についたにちがいない。
圧倒的な人びとはひとかけらの文句さえ
書くのがおっくうだった。
しかし、稀には書くことをいとわぬ時もあり,
書くことが好きな人もいた。
さらには書くことを職業とする人もいた。
そうした人びとが残した落書きだけでも
街なかの壁はあふれていただろう。
なんと多くの落潛きで壁が埋めつくされていることか!
再び次のような落書きが人目をひく。
「おお壁よ! こんなにも多くの落書き人の愚行に
力をかしたことによって
お前はくずれ去ってしまわないのだろうか。」
この落書きの詩句は、ポンペイの市街地のなかだけでも
四回繰り返されている。
それらの筆跡を調べてみると、それぞれ異なっており、
四者とも別人の手で書かれている。
そこからこの詩句が人びとに
よく知られたものであったことがわかる。
この詩句は哀調を帯び、悲歌のごとく口の端にのぼった。
それは広い地域で知られた格言であったかもしれない。
そして、古代ローマの町々を旅すれば,
各地で繰り返されていたかもしれない。
実際、それらの壁は、嘆きの詩句のように、
すべて崩れ去ってしまった。
しかし,ただポンペイにのみ壁は残り,落潜きも残った。
それらの落潜きを今われわれは悲嘆ではなく、
賛嘆の声をあげてながめるのである。
(301~302p)
落書きの数は1万点。
そして何より、ポンペイ以外では、
それらの落書きは消えてなくなってしまっているのですが、
ポンペイには残っている。
普通は消えるよね。
太陽光線によって、色あせて消えていく。
古い建物の壁は壊されて新しいものに交換される。
それが普通です。
だから普通は残らない落書き。
ポンペイの1万点は、
やはり驚嘆の声をあげてながめてしまうのでしょう。
しかし、ポンペイで発見された落書きにも、
消えていく運命があるようです。
「あとがき」から引用します。
1980年の早春、私は初めてポンペイの遺跡を訪れた。
古代の町並みがそっくりそのまま残る広大な遺跡。
そのなかでことさら目をひいたのが
街路の壁に書かれた落書きだった。
今日では光や大気にさらされてもはや目立たなくなっている。
なかには日光を避けてカーテンで匿われた箇所もある。
うっすらとかすれて判読しにくくなっているが、
そこにはまぎれもなく古代の民衆の肉声があった。
(303p)
それはもったいない話です。
色あせないように、どうにかならないのでしょうか。
でも、この本の著者のような研究者が、
しっかり記録していることでしょう。
つづく。
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